戦争末期の恐るべき出来事。九州の大学付属病院における米軍捕虜の生体解剖事件を小説化し、著者の念願から絶えて離れることのない問い、「日本人とはいかなる人間か」を追求する。解剖に参加したものは単なる異常者だったのか?いかなる精神的倫理的な真空が、このような残虐行為に駆り立てたのか?
遠藤周作:『海と毒薬』読了しました。
実話に基づいた小説。
海と毒薬。さすが、遠藤周作といっていい、この2つの言葉を組み合わせる発想。
タイトル見ただけで、「これ暗い話だな?」ってわかるようになっているし、実際終始暗い雰囲気漂う作品。
時代背景は、太平洋戦争中、米軍捕虜を生体解剖するという実際の事件を元にしている。
主人公である、勝呂医師はその当時、研修医の立場としてその実験に参加した。倫理的にこれは医師とし果たして、本当に良いことなのか?と疑問に思いつつも、研修医という立場上、上の指示には逆らえない。
物語は、主人公の今の姿を写すところからはじまって、過去にタイムスリップするような展開。
勝呂という医師が主人公ではあるが、他にも様々な人間が登場してくる。
それら、主人公の周りの人間の内面を描写する表現も数多く顕れている。そして、各人物の精神がどのように形成されてきたのか、細部まで描いているのが、遠藤周作らしい作品になっている。
生体解剖にたいする捉え方は、各人物によって違う。精神的呵責をおこす者、なにも感じない者、事務的に捉えている者、なにも感じない自分を恐れる者。
遠藤周作らしい、人の内面を強く、そして暗く描いている作品でした。
後味は、全然よくないので、好き嫌い分かれる作品になっているなぁと思いました。